「発動 京都の工芸」

躍動と清明の神秘的な共存
 ガラス造形作家 生田丹代子さん
 生田丹代子さん(1953年−)は、板ガラスを貼(は)り重ねて、さまざまなかたちの表現に取り組んでいる。大空へ羽ばたく翼を思わせる「Memories」、うねる波の高まりをとらえた「TheSea」など、有機的なかたちは動きを秘め、連続した時間を切り取ったような印象がある。他方、透明感のある青や緑の色彩、板ガラス1枚ごとに変化する光の透過や反射などと相まって、作品は不思議な静けさや清明な表情もたたえ、どこか神秘的な雰囲気すら漂わせる。

 作品の構想は自然から得ることが多いという。製薬会社の研究所に置かれた「Life2000」は海に近い立地に配慮し、海原のイメージと生命感をなだらかな曲面で表現した。「TheSea」の波にはダイビングの経験を生かした。工房からほど近い広沢の池で、冬の静かな夜明けから着想した「黎明」という作品もある。自然界の豊かな造形をヒントにしながら、高揚感など心の動きを託していく。

 イメージが固まると、まず10分の1の大きさで紙粘土のモデルを作る。次に輪切りにした断面の形を方眼紙に写し、10倍に拡大する。その下図を厚さ5ミリの建築用ガラスに敷き、ローラーカッターでかたちを切り抜く。特殊な接着剤で貼り重ねると、イメージから実体が生成する。1枚の接着には約3分間かかり、数百枚を重ねる大作は必然的に時間がかかる。高さ1・2メートルの「Life2000」は2カ月かけて完成した。接着する際にガラスが微妙にずれたり、ガラスの間に気泡が入ったりしないよう、細心の注意も必要だ。

 ガラス工芸を手掛けるようになったのは80年ごろ。京都市中京区の開業医の家に生まれ、京都薬科大学を卒業して生家で薬剤師を務めていた。茶道や華道とともに趣味でステンドグラスの制作を学んだのがガラスとの出会いで、美術館で見たガラス作品展に触発され、多様な表現の可能性に目を開かされた。

 85年、チェコスロバキアでガラス作家のシンポジウムに参加したのが一つの転機になった。「自分を信じて頑張れば何とかなる、と励ましてもらって。作品の独創性を認められたことで、自分の造りたいものを造っていけばいい、と思えるようになった」。87年に日本ガラス工芸協会賞、90年に京都市芸術新人賞、01年には金沢での国際ガラス展で銀賞に輝いた。

 東京の高層マンションや霊園など、近年は建築内や公共の場に設置する作品の制作依頼も多い。設置場所の図面を受け取ってイメージを膨らませるのが楽しい、という。「ガラスは光の加減や見る角度によって表情が大きく変わる。見る人の位置や気分によって、作品の好きな所を見つけてもらえるのではないか」

 4月に米国ケンタッキー、5月にはハンガリーのブダペストで国際展に出品。5月下旬には京都で個展も予定する。私生活では双子の男児、太一郎君と和輝君が今春、小学校へ入学する。「新しい生活が落ち着くまで大変かも」と話しつつ、愛児たちの伸びやかなエネルギーを創作に織り込みたいとも願っている。

 写真(右)=「個展では15枚のガラスで何が出来るかをテーマにしたい」と話す生田さん

 写真(左)=「Life2000」(愛知県武豊町・ファイザー製薬中央研究所)

 

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