「発動 京都の工芸」

小さな命への慈しみを形に
 金工作家 加藤忠雄さん
  ツノをピンと伸ばした写実的なカタツムリ。丸々した体に生命感を満たす魚。加藤忠雄さん(1939年−)の金工作品を彩る生き物は、小さな命を慈しむ作家の柔らかな視線を感じさせる。

 「幼いころから昆虫が好きで。ここ等持院へは5歳のころ移ってきましたが、裏がクヌギ林で、カブトムシを採ったりしたんです。中学時代も生物部に入り、蝶を追いかけていましたね」。長じて釣りを趣味とした。今も仕事場付近で見かける鳥や蝶の名は「80%くらいは分かる」という。

 生き物への思いをかたちにした作品は、一方で高度な金工の技の表出でもある。飾筥(かざりばこ)の蓋(ふた)や香炉の火舎(ほや)のつまみも兼ねる小動物は、多くは「高肉彫り」で表現する。厚さ1ミリほどの地金を、裏から叩(たた)いて打ち出す技法だ。叩いた地金は伸びて薄くなるため、破れないよう細心の注意が欠かせない。殻を背負ったカタツムリの複雑なかたちも1枚の地金から打ち出され、鑑賞者の心に驚きを呼び起こす。

 著名な金工作家だった加藤宗巌(故人)の二男として生まれ、父の道具を「おもちゃ代わりに」育った。工作好きな少年は、父と訪れた日展で大須賀喬(同)の巧みな昆虫の金工作品に感動し、1961年から内弟子として3年間師事。板金を曲げて鳥などを表す技法を父から、高肉彫りなどを師から受け継ぎ、京都府工芸美術展、日展、日本伝統工芸展などで作品を発表してきた。「硬い金属を叩(たた)くことで温かさや柔らかさも見せられるのが金工の魅力です」

 打ち出し、象眼をはじめ金工の技法は「やりつくされている」と見る。そのような技法を受け継ぎつつ、現代の作家として自分なりの表現も模索しなくてはならない。独自の技法として切り開いたのが、大小の丸い槌(つち)目を生かしたマチエールの表現だ。地金を熱したあと冷まし、木台の上で叩くと、浅いくぼみが生じ、表面処理によって風紋状の表情が加わる。リズミカルな槌目と魚などモチーフとの響き合いは、作家の遊び心もうかがわせ、一つの見どころとなっている。

 新素材にも挑戦している。2年ほど前から人工オパールを作品に取り入れた。深い銀色の地に、透かし入りの白銀色の覆いを付け、透かし部分からオパールと金を交互に見せる近作の飾筥や花器は、螺鈿(らでん)のようなオパールの輝きと相まって、ともすれば金工作品に対して抱きがちな地味なイメージを覆す華やかさがある。

 長男雅也さん(1975年−)も金工作家として京都市美術展などに入選経験を持つ。昨秋、茨木市で金工三代展を開いた。反応は上々で、伝統工芸の学校関係者も見学に訪れた。「私の若いころには京都に十数人の金工作家がいたが、今では職人以外はほとんどいない。もっと金工について一般の理解を得られる機会があれば」と願う。

 「小さくても光る作品を」が創作のモットー。「パッと見のフォルムの美しさだけでなく、うんと技術を入れた作品。そこに新しさをいかに込めるかです」。代々受け継ぐ古びた木台に向かい、きょうも槌を振るう。

 写真(右)=「見て美しく、使って楽しく、生活に潤いを与えるのが真の工芸品」と話す加藤忠雄さん

 写真(左)=加藤さんの近作から花挿「銀河」(中央)など  

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